◆研究内容◆


地球環境と調和するバイオプラスチックの創成と
生分解性高分子材料への展開

■目的■

近年、地球温暖化、酸性雨、海洋汚染、生態系の破壊などの深刻な地球環境問題が提起され、 地球環境と調和する人間社会の形成が全世界的な課題となっています。 柘植グループでは持続可能な社会を実現するための科学技術の一つとして、 再生可能な植物資源(糖、植物油)や二酸化炭素から生分解性高分子(バイオプラスチック)を微生物生産し、 それらを高性能材料化するための基礎研究を進めています。 特に私たちは、核酸、タンパク質、多糖、ポリイソプレノイドに続く、 第5の生体高分子として注目され始めたバイオポリエステルについて重点的に研究を行っています。 バイオポリエステルの生合成、関連酵素遺伝子の取得と解析、高生産微生物の分子育種、生体高分子結晶の構造解析と機能開発、 生分解性高分子の材料設計、生分解性の制御技術開発という一連の基礎研究を、 高分子科学と生物科学との異分野の研究者、大学院生が互いに密接に協力しつつ、強力に推進しています(図1)。

図1.バイオプラスチック研究のシステムフロー


■研究テーマ■

1.バイオポリエステル生産のための遺伝子工学

環境に調和する生分解性ポリエステルを再生可能な炭素資源や二酸化炭素から 効率よく大量に微生物生産するシステムを開発することが大きな目標です。 数多くの微生物は、エネルギーの貯蔵物質として(R)-3-ヒドロキシアルカン酸の光学活性ポリエステルを生合成し、 体内に顆粒状に蓄えています。これらバイオポリエステルは自然環境中の微生物によって完全に分解され、 最終的に無機化される生分解性プラスチックです。 これまでに、高性能バイオポリエステルを生産する3種の微生物からポリエステル生合成系酵素遺伝子を取得し、 その機能解析をすると共に、安価な植物油から共重合ポリエステルを大量に生産する遺伝子組換え微生物の分子育種に成功しています(図2)。 遺伝子工学、代謝工学、進化分子工学の各基礎技術を応用し、ポリエステル生産のための微生物の代謝経路を最適化し、 糖、植物油、二酸化炭素などの再生可能資源から新規な生分解性ポリエステルを効率的に 生産する微生物(大腸菌や水素細菌)を育種する研究を進めています。

図2.大量(81wt%)のバイオプラスチックを蓄積した遺伝子組換え微生物のTEM写真

2.ポリエステル結晶の構造解析と機能開発

結晶性高分子は、分子鎖が規則正しく配列している結晶領域と、不規則な状態で存在する非結晶領域から構成されています。 高分子鎖は、結晶領域において高分子物質に特有な結晶構造をとって配列しています。 私たちは、各種の生分解性脂肪族ポリエステルの単結晶を作成し、 それらの結晶構造および表面構造と物性および酵素分解性との相関関係を分子・原子レベルで解明することを目的に、基礎研究を進めています。 高分子結晶の構造は透過型電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、X線回析、固体NMR、コンピューターによるエネルギー計算手法を用いて 多角的に解析を行っています(図3)。

図3.生分解性ポリエステルの結晶構造と表面構造

3.生分解性高分子の材料設計と高性能化

理想的な生分解性高分子材料は、使用している間は優れた性能を発揮し、 廃棄後は、微生物によって完全に分解されて自然界の炭素循環システムに組み込まれる材料です。 優れた性能をもつ生分解性高分子材料を分子設計するためには、材料の物性と生分解性とを同時に制御できる方法論を構築する必要があります。 私たちは、高分子の分子・固体構造を制御することにより、合目的な性能や機能をもつ生分解性高分子材料を創成することを目的とした 基礎研究を進めています。


■関連学会・研究会■
●高分子学会 ●日本生物工学会 ●日本農芸化学会 ●バイオインダストリー協会 ●エコマテリアル研究会
■発表論文■
● 発表論文(T2R2へ) ● 修了生の論文タイトル

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